車に乗り込むと、スマホのアクセスポイントが勝手にオンになる。 車載の Android ボックス(Ottocast P3 Pro)は、こちらが何もしなくてもネットに繋がっている。

これまでは、エンジンをかけて、スマホを出して、アクセスポイントをオンにして、ようやく地図が動いた。忘れれば走り出してから気づく。その「乗る前の儀式」がまるごと消える。

やることは、MacroDroid というアプリでマクロを 1 個作るだけ。トリガーは「車の Bluetooth 機器に接続したとき」、アクションは「テザリングをONにする」。通信費も増えない。

引っかかるところが 1 つある。Android 16 以降はアクセスポイントの操作に Shizuku というアプリが要り、その Shizuku がスマホを再起動するたびに止まる。手作業として残るのはそこだけで、普段からスマホを再起動しないなら、ほとんど気にならない。

ここから、テザリングに戻した理由、作ったマクロの中身、Shizuku が要る理由と入れ方・起動のしかた、再起動でつまずくところ、の順に書く。試したのは Pixel 10 Pro(Android 17) の 1 台だけになる。

MacroDroid のマクロ一覧。「車用デザリング」という 1 個のマクロがあり、トリガーが 2 つ、アクションが「テザリングをONにする」、条件はなし 作ったのはこの 1 個だけ。トリガーとアクションが 1 つずつ(トリガーは 2 機器ぶん)の、いちばん単純なマクロ

物理 SIM を挿すか、テザリングを自動化するか

前の記事では、Ottocast をネットに繋ぐ方法としてスマホのテザリング・本体内蔵のクラウド SIM・物理 SIM の 3 つを挙げて、物理 SIM を選んだ。テザリングを外した理由は「乗るたびに手でオンにする必要がある」の一点だった。

その一点が消えるなら、追加費用ゼロで済むテザリングのほうが有利になる。 それが今回やったこと。

graph TD
  subgraph P["前提(手作業)"]
    W1["スマホを Wi-Fi に繋ぐ"] --> W2["ワイヤレスデバッグで<br>ペアリング"]
    W2 --> S["Shizuku を起動しておく"]
  end
  B["車の Bluetooth 機器に接続"] --> M["MacroDroid のマクロ"]
  S -.->|"起動していないと失敗する"| M
  M --> H["スマホの<br>アクセスポイントがオン"]
  H --> O["Ottocast が Wi-Fi で繋がる"]

枠の外は乗るたびに自動で走る。枠の中は前提で、スマホを再起動するたびに手でやり直す

マクロはトリガーとアクションが 1 つずつ

MacroDroid は Android の自動化アプリで、トリガー(きっかけ)・アクション(やること)・条件を組み合わせて「マクロ」を作る。今回のマクロは条件なし、アクション 1 つ。

  • トリガー: 「デバイスに接続時」。ペア済みの機器から選ぶ1
  • アクション: 「テザリングのON/OFF」の「テザリングをONにする」

MacroDroid のマクロ編集画面。トリガーに「デバイスに接続時 OttoAibox-P3 Pro-FA79」と「デバイスに接続時 CAR MULTIMEDIA」、アクションに「テザリングをONにする」、条件は「条件なし」 トリガーだけ 2 つ登録してある

トリガーを 2 つにしているのは、どちらが先に繋がるか分からないからだ。 Ottocast 本体と車のディスプレイオーディオ(CAR MULTIMEDIA)のどちらに先に繋がっても発火するように、両方を登録してある。

Android 16 以降はアクセスポイントの操作に Shizuku が要る

引っかかるのはアクションのほう。MacroDroid の公式 wiki によると、Android にはアクセスポイントを制御する公開 API が無い。MacroDroid はこれまで非公開の仕組みを使ってきたが、Android 16 以降はその非公開 API も使えなくなった2。

そのため Android 16 以降は、アクションの設定画面で「メカニズム」を選ぶことになる。Pixel 10 Pro(Android 17)でも、この選択肢が出た。

MacroDroid のアクション設定ダイアログ。「テザリングをONにする」が選ばれ、メカニズムの欄に「Shizukuを使う」(選択済み)と「擬似的なUIタッチ操作」が並んでいる アクション一覧でも「テザリングのON/OFF」に「ルート/Shizuku」と添えられている。ダイアログ下部がメカニズムの選択

自分が選んだのは 「Shizukuを使う」。もう一方の「擬似的なUIタッチ操作」は、設定できること自体は確認したが、動作は試していない。画面を操作する仕組みなので、画面をオンにしていないとうまく機能しないのではないかと思ったため。公式 wiki では実験的な機能と位置づけられていて、必要なら画面をオンにし、通知シェードを下ろしてクイック設定タイルを押す、と説明されている2。

Shizuku を入れて起動する

Shizuku は、root を取らずに ADB 相当の権限をアプリへ貸すためのアプリ。 MacroDroid はこれを通してアクセスポイントを操作する。

Play ストアから入らないことがある

Shizuku は Google Play にも出ている3。ただ、Pixel 10 Pro では「このデバイスは非対応」と表示されて、そこからは入れられなかった。

入れたのは GitHub の Release にある APK。公式のダウンロードページは Google Play・GitHub Release・Coolapk・IzzyOnDroid(F-Droid リポジトリ)の 4 つを案内しているので4、Play が駄目でも入手先はある。

Play ストアの掲載は最終更新が 2024 年 3 月で止まっている一方、GitHub 側の最新は v13.6.0(2025 年 5 月)だった5。動かしているのは Version 13.5。

起動方法は 3 つある

起動方法は 3 つある。root で直接起動する方法、Android 11 以降のワイヤレスデバッグを使う方法、PC から ADB で起動する方法6。自分はワイヤレスデバッグでやった。 PC は要らない。PC と繋ぐ方法は試していない。

Shizuku アプリ。「Shizuku は停止中」と表示され、「ワイヤレスデバッグで開始」の節にガイド・ペアリング・開始のボタンが並んでいる 起動前はここが「Shizuku は停止中」になっている。使うのは「ワイヤレスデバッグで開始」のほう

ワイヤレスデバッグでペアリングする

先にスマホを Wi-Fi に繋いでおく。 ワイヤレスデバッグは名前のとおり Wi-Fi 経由で ADB に繋ぐ仕組みなので、スマホがローカルネットワークに繋がっていないと始められない。Shizuku のペアリング画面にも「Shizukuはローカルネットワークにアクセスする必要があります」と出る。自分は家の Wi-Fi でやった。

その上で、手順は Shizuku アプリの「ペアリング」画面に書いてあるとおり、次の 3 つ。

  1. 開発者向けオプションの ワイヤレスデバッグ を有効にし、「ペア設定コードによるデバイスのペア設定」をタップして 6 桁のコードを出す
  2. Shizuku から出る通知にそのコードを入力してペアリングする
  3. Shizuku に戻って「開始」を押す

Android の開発者向けオプション。「USB デバッグ」と「ワイヤレス デバッグ」がどちらも有効になっている ワイヤレスデバッグは Wi-Fi 接続時にデバッグモードにする設定。スマホがローカルネットワークに繋がっている必要がある

Shizuku のペアリング画面。ローカルネットワークへのアクセスが必要という説明と、ペア設定コードを使う 3 ステップの手順が書かれている 「ワイヤレスデバッグ」の行は、右のスイッチだけをオンにするのではなく、行そのものをタップして中に入る、と注意書きがある

「実行中」に変われば起動できている

うまくいったかどうかは Shizuku のトップで分かる。

Shizuku アプリ。「Shizuku は実行中 Version 13.5, adb」と表示されている ここが「実行中」に変われば起動できている。アプリごとの許可はまだ 0 個で、MacroDroid への許可はこのあとアクションをタップして与える

再起動すると Shizuku が止まる

ここがこの構成のいちばん弱いところ。

スマホの電源を落とすと Shizuku は止まる。 Shizuku の公式ドキュメントにも、システムの制約により再起動のたびに起動手順をやり直す必要があると書かれている7。アプリの中にも、「コンピュータに接続して開始する」の説明として「この作業は、端末を再起動するたびに繰り返す必要があります」と日本語で出ている。

「起動時にスタート」は root が要る

Shizuku の設定には「起動時にスタート」という項目があるが、これは root 化された端末向けで、「要root」と明記されている。root を取っていない Pixel 10 Pro では、オンにしていても再起動後の Shizuku は止まっていた。

Shizuku の設定画面。「スタートアップ」の項目に「起動時にスタート(要root)root化された端末では、起動時に自動的にShizukuを起動できます」とあり、スイッチがオンになっている オンにはできるが、括弧の中に「要root」とある

MacroDroid の公式 wiki には「ワイヤレスデバッグによる自動起動を使うのでなければ、Shizuku は再起動のたびに起動し直す必要がある」という書き方がある8。ただ、Pixel 10 Pro ではワイヤレスデバッグを有効にしたままでも、再起動後の Shizuku は止まっていた。 wiki の言う「自動起動」が、上の「起動時にスタート(要root)」と同じものを指しているのかどうかは確認できていない。

止まっていることは MacroDroid が教えてくれる

Shizuku が止まった状態でマクロを開くと、MacroDroid 自身が「このマクロを実行するには Shizuku が起動している必要がある」と教えてくれる。

MacroDroid のマクロ編集画面に「以下のマクロを実行するには、スマホ上でShizukuが起動している必要があり…」というトーストが出ている アクションの側にも「アクセス許可が必要 – タップして付与」と警告が出る

通知も飛んでくるので、気づけないということはなかった。 出たのはマクロが失敗したときだったと思うが、そこは正確に覚えていない。

なので、スマホを再起動したら上の手順で Shizuku を起動し直す。忘れると、車に乗ってもアクセスポイントは入らない。

とはいえ、スマホを普段から再起動しないなら、ほとんど気にならない手間でもある。やり直しが要るのは落としたときだけで、乗るたびの操作とは頻度が違う。

MacroDroid には Shizuku が動いているかを見る条件(Shizuku State)と、止まったときに発火するトリガー(Shizuku Stopped)があるので、止まったら通知を出すマクロは組める9。そこはまだ試していない。

MacroDroid の料金

無料版は保存できるマクロが 5 個までで、広告が表示される。買い切りの Pro にアップグレードすると、その制限と広告が消える1011。サブスクリプションではない。

自分は Pro を買った。2026 年 8 月時点で 1,000 円。

ただし、今回のマクロは 1 個なので、これだけなら無料版の 5 個の枠に収まる。 この記事のことをやるためだけに買う必要はない。

それでも物理 SIM を残す理由

テザリングが自動化できたなら物理 SIM は要らない、とはならなかった。povo の SIM は挿したまま残してある。

  • 自分以外の人が乗るとき
  • テザリングが使えないときのバックアップ

アクセスポイントがオンになれば、Ottocast は自動で Wi-Fi 側に繋がる。役割としては、普段はスマホのテザリング、それが使えないときに物理 SIM、という位置づけになった。

まとめ

MacroDroid で「車の Bluetooth 機器に接続したらアクセスポイントをオンにする」マクロを組めば、乗るたびの手間は消える。マクロ自体はトリガーとアクションが 1 つずつの単純なもので、無料版の範囲で作れる。

引っかかるのは Android 16 以降でアクセスポイントの操作に Shizuku が要ること、そしてその Shizuku がスマホの再起動で止まることの 2 点。手間がゼロになるのではなく、「乗るたび」から「スマホを再起動したとき」に減る、というのが実際のところ。

それでも、乗るたびの操作は消える。車載ボックスの通信はテザリングを主にして、物理 SIM は自分以外が乗るときとバックアップに回すのがよさそうだと思っている。


  1. Trigger: Bluetooth Event | MacroDroid Wiki。Device Connected でペア済みの特定の機器を指定できること、Android 12 以降は BLUETOOTH_CONNECT 権限が要ることが記載されている。 ↩︎

  2. Action: HotSpot On/Off | MacroDroid Wiki。「Android does not offer a public API for controlling the hotspot」、および Android 16 以降は非公開 API が使えず Shizuku か Fake UI touches のどちらかが要ること。後者は実験的な機構で「turns on the screen if required, swipes down the notification shade, clicks the hotspot quick tile」と説明されている。 ↩︎ ↩︎

  3. Shizuku | Google Play。提供元は Xingchen & Rikka。2026 年 9 月 6 日に見た時点で、掲載はあるが最終更新日は 2024 年 3 月 10 日と表示されている。 ↩︎

  4. Download | Shizuku 公式。Google Play・GitHub Release・Coolapk・IzzyOnDroid F-Droid Repository の 4 つが並んでいる。 ↩︎

  5. Releases | RikkaApps/Shizuku。2026 年 9 月 6 日時点の最新は v13.6.0(2025 年 5 月 25 日公開)。 ↩︎

  6. Start Shizuku | Shizuku 公式ドキュメント。root、ワイヤレスデバッグ(Android 11 以降)、PC からの ADB(Android 10 以下向けと案内されている)の 3 通り。 ↩︎

  7. 同上。ワイヤレスデバッグの手順に「Due to system limitations, the startup steps need to be performed again after each reboot.」とある。 ↩︎

  8. ADB Hack | MacroDroid Wiki。「Shizuku itself must be restarted after each reboot unless you use its wireless-debugging auto-start」と書かれている。 ↩︎

  9. Constraint: Shizuku State と Trigger: Shizuku Stopped。前者に「The Shizuku service does not persist across a reboot」とあり、Device Boot トリガーと組み合わせて通知を出す例が載っている。 ↩︎

  10. Overview | MacroDroid Wiki。「The free version is fully functional but limited to five macros and shows adverts. A one-off Pro upgrade removes the limit and the adverts」。 ↩︎

  11. MacroDroid - Device Automation | Google Play。説明文に「無償版は、保存できるマクロ数の上限が5つまでに制限され、広告表示があります」とある。 ↩︎